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第1章 トラディショナルファッションの魅力

 

 
グレンチェック


ヘリンボーン

 

トラディショナルファッションはどうして我々をこれほど熱中させるのだろうか。

それは、前にも述べた 通り、 このファッションの持つ、保守さ、クラッシックさ、頑固さ、
インテリジェンスのあるふんい気、などの要素が我々をとらえてはなさないからだろう。

グッとおさえた渋い色の生地、ファンシイさの全然ない無地や、ヘリンボーン、グレンチェックなどのクラッシックパターン、
そして、まったく地味なのだが、 その道の“通”にはこたえられないディテールデザインの数々…
これらが大きな魅力になって、迫ってくる。

トラディショナルファッションには、こけおどかしなところはまったくないが、
その控えめなふんい気は何となくインテリジェンスを感じさせてくれる。
かくいう私もそうだが、一度この魅力に取り付かれると他の服装はみなバカらしく見え、
いかに流行だからといっても、まったく着る気はしなくなる。

スーツ一つを取り上げてみても、パッドをほとんど入れない狭めのナチュラルナローショルダー、衿から裾にかけて入れられた細いステッチ、
甘く返って、第一 ボタンが衿裏にかくれたシングル三つボタンの中掛けのスタイル、
深めに切られたフックベントやセンターベントetc、etc‥‥‥

そこには古いアメリカの 良さが感じられる。
そして、このファッションは、古さだけでなく、若々しいスポーティータッチも 充分に備えているのだ。
もし街中で、こんな服装でバッチリきまった人たちとすれ違ったとしたら、
思わず声を掛けてみたくなる衝動をおさえられないだろう。

トラディショナルファッションとは、こんな魅力を持つものなのである。

 


その生命はナチュラルショルダー

 

トラディショナルスーツでもっともポイントになるのはどこだろうか。
ボタンやフロントカットなどのディテールデザインもその一つには違いないが、もっとも大切なものは肩の線である。
というのは、ナチュラルナローショルダーでなければ、本ものではないからだ。

ナチュラルショルダー、つまりパッドをほとんど入れない自然肩で、ナロー、即ち狭めというのがトラディショナルスーツの重要な点、
他のデザイン、例えば、 前が三つボタンで段返りになっていても、肩がコンケープショルダー(そり返った肩)だったり、パッドを厚めにきかせたスクエアショルダー(角型)だったり しては、トラディショナルスーツとはいいがたい。

このナチュラルショルダーにも最近は二通りのものが見られるようになった。
一つはクラッシックなブルックス・ブラザーズタ イプ。どちらかというとナチュラルショルダーだが、やや角型のシェープを描いているものと、ニュートラッドの旗手、ラルフ・ローレンの作る<ポロ>のスー ツのように、ナチュラルショルダーで非常に丸味をおびた肩である。

いずれにせよ、肩から袖につながるラインがなだらかでなければいけなく、この線が、他のヨーロッパの服やイギリスの服とは大きく違う点である。
そして一度、このナチュラルショルダーの魅力に取りつかれると、もう離れられなくなって 生涯ナチュラルショルダー党になるのが普通である。
話が前後するが、肩がナチュラルショルダーなら、他の部分、例えば前ボタンが二つであっても立派なトラディショナルスーツなのだ。


 
 


本場のエグゼクティブルック


もう二昔も前のことなので、自宅の本箱を探しても見つからなかったが、昭和三十年前半に発売されたアメリカの有名な経済学者、バンス・パッカードの名著「ピラミッドを登る人々」の“エグゼクティブルック”の項に次のような意味のことが書いてあったのを記憶している。

「アメリカの一流会社のエグゼクティブ(重役)は、まるで仲良しの少女みたいに同じ格好をしている。
それは、ダークな色のスーツと帽子、ボタンダウンのシャツ、細いストライプのタイ、ウィングチップの靴等である………」
この時期、私はちょうど 服飾の仕事に入ったばかりであり、何しろアメリカといえば憧れの的だったので、 この文章は鮮烈な印象となって、脳裏を去らなかった。
ところで、パッカードのこの描写は、現在でもニューヨークのビジネスマンに関する限り、帽子をかぶらなくなったことを除いては、ほとんど一致している。
 
シ ニアエグゼクティブ(上級重役)ともなれば、みなナチュラルショルダークロージングといわれるトラディショナル三つボタンのスーツにボタンダウンか、お しゃれな人ならピンホールカラーのドレスシャツを着、そして、斜めストライプ(レジメンタル)のネクタイをしめているというのがほとんどだ。

スーツの生地も薄手のウーステッドフラノで、ズボンのヒダなどがまるでナイフの刃みたいにシャープなプレスが掛けられている。
生地の色は日本のビジネスマンの大半が紺か黒だが、アメリカでは顔の色や髪の色の関係だろうか、圧倒的にチャコールグレイの無地が多い。
例え初対面でも、こんなスーツをピチッと着た堂々たる紳士に紹介されたら、名刺をもらう前にその人の社内のポジションが大体察しが付くのは、日本に比べて非常に便利なことといえるだろう。

テレビでよく見るオバマ大統領もいつも同じようなスーツ姿だが、ダークカラーのスーツ、プラス、ストライプのタイは、地位の高い立場にある人のユニフォームといっていいのではないだろうか。


 
第1章(終)
 
 

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